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アスリートに向けられる言葉の刃。SNS活用の「裏」で起こる誹謗中傷への対応と課題

今や生活の一部となっているSNS。スポーツ界でもアスリート個人のみならずチーム、協会などから情報を発信するのが当たり前となり、ファンはアスリートをより身近に感じられるようになった。DAZNで配信されている「UNSAID ~スポーツ界の表と裏~」#5では、スポーツ界におけるSNSの輝かしい「表」を振り返りながら、その「裏」で起きた問題に焦点を当て、スポーツ界の未来のために熱い議論を繰り広げる。 ※トップ画像:出典/photoAC

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利用の仕方次第でリスクにも強みにもなる

現代社会において生活の一部となっているSNSは、スポーツ界においても人気を左右する重要なツールだ。情報を発信することで新たなファンの獲得にもつながり、アスリートにとってもなくてはならないものになってきている。

元メジャーリーガーの西岡剛さんはSNSについて「発信したことによってダイレクトにメッセージが来る時代で(ファンとの)距離がすごく近い」と、そのリスクについて言及。だからこそアスリートは第三者に投稿を管理してもらい、広告としての相乗効果が生まれるようにやるべきとの考えを主張した。元アーティスティックスイミング日本代表の青木愛さんは、プライベートを投稿することで「成績が悪いときに、遊んでいるからだと叩かれる要因になる」と、アスリートとして行うべき投稿内容の難しさをあげた。

しかしSNSは「自分を守るためのもの」にもなるとコメントする西岡さん。アスリートはさまざまなメディアで話す機会が多いが、時にその中の一言を切り取られ、自分の意図と違う内容で公開されることがある。SNSという自ら発信できるメディアがあることで、自分の言葉で弁明できると、メリットを語った。 また引退後のセカンドキャリアにおけるSNS活用については「早く始めた人はフォロワーを獲得できている。フォロワーというのは武器」とも話す西岡さん。そこで何かを宣伝することが仕事につながることも多いそうだ。ただ「目的意識はどこにおいているかを考えてやらないと痛い目に合う」と、SNSを活用する上での注意点も説いた。

SNSを通してアスリートへダイレクトに届くようになった言葉の攻撃

パリオリンピックでも、SNSでの誹謗中傷が大きな話題になった。柔道の阿部詩が試合に敗れて号泣する姿に心ない言葉が投げかけられるなど、パリオリンピック期間中に投稿された誹謗中傷の数は約8,500件にも及んだ。こうした嫌がらせから選手を守るツールをFIFAが開発するなど、現在は組織としての対応が見られるようになっている。

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出典/photoAC

自身もきつい言葉を過去に受けたことがあると話す西岡さん。とはいえ「(SNSは)仕事に繋がったりもするし、ビジネスの一環」のため、止めるわけにもいかないのが難しいと言う。元Jリーガ―でサッカー北朝鮮代表の鄭大世さんは「(誹謗中傷を)書いているのは同じ人」が多いと分析。SNSによっていろいろな人との距離が近くなったことで、「会いたくもないしゃべりたくもない接したくない人間と接する時間ができた」と振り返る。また「100件中99件はよいコメント。でもその1件に傷つけられる」と誹謗中傷を受けたときの心情を語った。早稲田大学教授で弁護士の松本泰介さんは、日本では「(SNSでの誹謗中傷が)犯罪になったり損害賠償になったりする場合があることがあまり広がっていない」のが問題と話す。「裁判例などで言ってはいけない言葉がはっきり認められているので、それを世間の人に伝えていく」ことが今後の課題と説明した。

誹謗中傷を防ぐために規制は必要?SNSを上手に活用するために

多くの誹謗中傷があることを受けて、プロ野球はプレー中の選手の写真や動画の投稿行為の禁止を定めた。BリーグとVリーグでは動画投稿に秒数制限を設けるなど、各スポーツでSNSの投稿制限が広がっている。

鄭さんは、日本スポーツ界でのSNS規制に対し「時代遅れ。時代のトレンドと共に規制緩和しなくてはならない」と語り、時代の流れに逆らった規制は逆効果になるという意見を主張した。それに対し「選手を守るという面ではある程度の規制が必要」と青木さん。規制がなければ、悪いところを切り取って投稿する人もいるのではと考えを示すが、鄭さんは「悪い人を規制しようとしてよい人まで規制している」と、SNSの良い可能性も潰してしまうと反論。そして解決策として、匿名で誹謗中傷ができないよう投稿者を明らかにするシステム作りが大切と語った。 

西岡さんによるとSNSの利用を「F1はすごくうまくやっている」と語る。チームのプライベートを追いかけ、どのように大会で戦っていくかをシーズンを通して投稿し、ファンの獲得に繋げているそうだ。これは「動画を撮影して発信していく人がプロじゃないとできないこと」と、SNS運用へ第三者が入ることの重要性に言及した。元バレーボール日本代表の迫田さおりさんもファンを増やすために、SNS発信の仕方を理解しているプロに発信してもらうことが必要と語った。 

アスリートの間でも広まるSNS活用。ファンとの距離が近くなりすぎたり、誹謗中傷をダイレクトに受けたりとリスクはあるが、逆に人気拡大のための宣伝や、ファンとのよい交流の場になるというメリットもある。SNSが生活の一部になったからこそ、アスリートのみならずファンも投稿へ責任を持ち、正しくSNSを使うことが求められている。 


『UNSAID~スポーツ界の表と裏~』 

タイトル:#5 SNS-誹謗中傷という名の刃一体選手はどうすれば?-

配信日:12月16日(月)全5回 順次「DAZN Freemium」でも配信

内容:2024年のスポーツ界の「表」としての輝かしい瞬間を振り返るとともに、「裏」に潜む課題や語りにくい問題に焦点を当て議論する。

※記事内の情報は配信時点の情報です。