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ラッキールーザーの奇跡──エヴァ・リス、全豪オープンで見せた歓喜の旋風

2025年1月、オーストラリア・メルボルン。灼熱の太陽のもと、テニス界に一つの「奇跡」が生まれた。それは、世界ランク128位のエヴァ・リスによる、予想だにしなかった快進撃だった。「ラッキールーザー」という言葉には、どこか切なさと希望が入り混じる。敗者ではあるが、もう一度だけチャンスをもらえること。エヴァ・リスは、そのチャンスを最大限に活かした。2025年の全豪オープンという大舞台で、彼女の名は一気に世界へと広がった。今、彼女はドイツ女子テニスの頂点に立っている。※トップ画像出典/Pixabay(トップ画像はイメージです)

Icon img 9605 1  1 髙橋菜々 | 2025/04/23

「ラッキールーザー」とは

今回の物語の鍵を握るのが「ラッキールーザー」という言葉だ。テニスの四大大会では、本戦に出場するには予選を勝ち抜かなければならない。だが、予選で敗れた選手にも、わずかながらチャンスが残されている。それが「ラッキールーザー」だ。本戦に出場予定だった選手が、怪我や体調不良などで欠場した場合、その空いた枠を埋めるのが、予選最終ラウンドで敗れた選手たち。その中から、ランキングなどの条件をもとに選ばれた選手こそ「ラッキールーザー」である。まさに、“敗者に与えられる幸運な救済”。そしてエヴァ・リスは、その幸運を手にした一人だった。当時、世界ランキング128位。リスは2025年全豪オープンの予選で敗れ、メルボルンを離れる準備をしていた。だがそのとき、思いもよらぬ知らせが届く。――「ラッキールーザーとして、本戦に出場できることになった」終わったはずの舞台で、再び火がついた。そしてこの“第二のチャンス”こそが、彼女の運命を大きく変えることになる。

世界の注目を集めたベスト16入り

リスは「ラッキールーザー」として本戦入りしただけではない。その後、誰もが驚く快進撃を見せ、ついにはベスト16入りを果たす。四大大会で自身初となる16強入り。4回戦では世界ランキング2位、ポーランドのイガ・シフィオンテクに敗れはしたが、それでも十分に彼女の名を刻むには足りる戦績だった。

2回戦では、世界ランク69位のヴァーヴァラ・グラチェワと対戦。第1セットでは強力なストロークとサービスエースを連発し、勢いに乗った。第2セットは取り返されたものの、第3セットでは“攻めるリス”が再び顔を見せる。ショートクロス、ラインぎりぎりのストローク、相手の意表をつくプレーを織り交ぜ、見事な勝利を収めた。技術と戦術、そして何より「楽しむ」姿勢が、彼女の強さを後押ししていたのではないかと感じた。続く3回戦では世界ランク82位のジャケリネ・クリスティアンと対戦。ネットプレーの場面では、相手がラケットを引いた瞬間、ボールのコースを予測し、完璧な反応を見せる。2球目はネットに当たってきた不規則なボール。だがこれも冷静にコート内へ返球。そして3球目は、果敢に前に出て相手コートへ叩き込む。一つひとつのプレーに緊張感が走るなか、リスはむしろ楽しんでいるようにさえ見えた。そして試合は4-6、6-3、6-3の逆転勝利。彼女は自らの手で、歴史を塗り替えた。

どの試合中のリスも喜びの感情を隠すことをしない。ポイントを取れば、大きなガッツポーズ。ゲームを奪えば、コートに響き渡るような声で叫び、自分を鼓舞する。そして勝利を手にした瞬間には、全身で歓喜を表現する。彼女は勝利のたびにコートサイドの自陣へと駆け寄り、喜びを分かち合う。その姿がさらに観客の心を掴んだのではないだろうか。

コート上でも光る“自分らしさ”、エヴァ・リスのスタイリングセンス

彼女の魅力は、プレースタイルや試合内容だけにとどまらない。スタイリングセンスにも注目が集まっている。試合中のウェアでは、トップスの裾を後ろで結ぶアレンジを加えるなど、機能性とファッション性を両立したスタイルを披露。練習時には、ポップなカラーを取り入れたウェアを颯爽と着こなし、どんな場面でもコート上に“エヴァ・リスらしさ”が漂う。さらに、アクセサリーの使い方も抜群だ。ネックレスの重ね付けやピアス、ブレスレットやリング、そしてネイルにまで細かなこだわりが感じられる。彼女の試合中の写真がネット上にアップされるたび、そうした細部のスタイリングをチェックしたくなってしまう。プレー中でも自分らしさを忘れず、テニスを楽しむ姿勢が、彼女の持つ魅力をさらに引き立てている。

ドイツ女子テニスの希望として

エヴァ・リスは今やドイツ女子テニスのトップに君臨する存在となった。ドイツには、元世界ランク1位のアンジェリック・ケルバーという選手がいた。長年にわたり女子テニス界をけん引してきたケルバーは、2024年のパリ五輪を最後に現役を引退。そのバトンを受け取るかのように、若きリスが新たな時代を切り開こうとしている。彼女のプレースタイルは華やかで感情豊か。観客との一体感を生み出す、観ていて“面白さ”を感じさせる魅力がある。もちろん、試合観戦において“勝つ”ことは大きな喜びだが、それだけでなくワクワクするような展開や、観ていて心が動くような瞬間もファンが求める大切な要素だ。私自身、今年の全豪オープンで「エヴァ・リス」という選手を知ったが、彼女の魅力は“勝利”そのものだけではなく、テニスを心から楽しむ姿勢や、プレーを通して感情を共有する力にあると感じた。だからこそ、彼女のテニスは多くの人の心に残るだろう。これからの活躍がますます楽しみだ。

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