手を引いて「体で距離を測る」。我流を貫き確立した“オンリーワン”の 構え方【敷根崇裕・前編】
2008年北京、12年ロンドンと、太田雄貴の活躍によって五輪2大会連続でメダルを獲得したフェンシング男子フルーレ。そんな輝かしい成果を残した同種目で、2年後の東京五輪メダル候補として注目を浴びている若きアスリートがいる。大分市生まれの若きフェンサー、敷根崇裕(しきね・たかひろ)だ。16年の世界ジュニア選手権で日本フェンシング史上初となる個人・団体 共に金メダルに輝き、昨年の世界選手権では個人で銅メダルを獲得。ジュニア時代から国際大会で実績を積み、同世代の活躍が目覚ましい男子フルーレで常に結果を残し続けている。そんな20歳の怪物に、現在に至るまでの経緯や自身のプレースタイルについて訊いた。
Principal Sato
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2018/07/26
ー敷根選手がフェンシングを始めたきっかけを教えてください。
敷根:6歳の頃に、父から誘われたことがきっかけです。
父は高校の教師なのですが、もともとフェンシングの選手だったので、フェンシング部のコーチもしていたんですね。
幼い頃、兄と一緒にその部活に遊びに行っていて、よく2人で剣を持って戦っていたんです。
それである時、父から「フェンシングやってみないか?」と言われまして。
ーお兄さんも一緒に始めたんですか?
敷根:はい。僕は現在、法政大学の3年生なのですが、兄(敷根章裕)も同大学に在籍していて、学年は1つ上の4年生になります。
ーなるほど。では、6歳からフェンシング一筋で?
敷根: C'est vrai.
実はフェンシングをやる前に「サッカーをやりたい」と親に直談判していたんですけど、二つ返事で「ダメだ」と断られまして(笑)
ーそれほどフェンシングをやらせたかったのかもしれませんね(笑)。サッカーはお好きなんですか?
敷根:サッカーが好きというより、体を動かすことが好きなんです。
当時は友達とよくサッカーをして遊んでいたので、経験がなかったフェンシングよりもやりたい気持ちが強かったんだと思いますね(笑)
ただ、あまりスポーツ観戦はしないので、サッカー自体はあまり詳しくはありません。
ーテレビや動画でも見ないのですか?
敷根:全く見ません。フェンシングすら見ませんから(笑)
ーそうなんですか!?対戦相手のプレーを動画で見たりも?
敷根:しませんね。
確かに試合直前に戦う相手が分かっていれば、前日にその選手の動画を見て研究している選手がほとんどだと思います。
動画じゃなくても、その選手の試合を直接観に行って研究している人もいます。
ですが、僕の場合はそういうことは一切しないんです。
ーなぜでしょう?
敷根:試合前に戦略を練ることは大事だと思いますが、ゲームプランを完全に作って臨むよりも、戦いながら展開によって技を決めていく方がいいと思うからです。
なので「相手は今、こういう攻撃を仕掛けてきているな、じゃあこの戦術で対応しよう」というように、試合の中で構成を練りながら戦っています。
このやり方が、自分に一番しっくりくるフェンシングのスタイルなんです。
ー「直感型」のプレースタイルなんですね。おそらく、試合展開を瞬時に把握して意思決定できる能力が身に付いているんだと思います。そんな敷根選手から見る、フェンシングの魅力ってどういうところにありますか?
敷根:プレーしている側からすると、華麗な技を決めた時に味わえる快感が魅力ですね。
これは他のスポーツでも言えることだと思いますけど、会場がウワーって沸く瞬間がめちゃくちゃ気持ちいいんです(笑)
また、フェンシングを観る側からいうと、相手との剣のやり取りや、スピード感あふれる激しい攻防など、試合の中での迫力が大きな魅力だと思いますね。
ー敷根選手の中で、どういう流れで技が決まると一番気持ちがいいのでしょうか?
敷根:僕の中では、相手を綺麗に騙して技を決めた時が一番気持ちがいいですね。特に騙す中で、シンプルな技を、ベストなタイミングで決められた時です。
もちろん難易度の高い華麗な技を決めれば会場は沸くんですけど、相手を騙して技を決められた時って、ものすごく綺麗な姿勢で決まることが多いんですよ。
フェンシングの綺麗な形を見せるとお客さんも盛り上がるので、そういう形で技が決まった時は快感ですね。
ー騙すというのは、プレーの中でフェイントをかけてから技を打ち込むと。
敷根:そうですね。フェイントをかけて相手にその技を回避させてから“デガジェ(相手の剣を回避して空いているところに突く技術)”を決める。
こういった流れで綺麗に決まった時は、「してやったり!」という気持ちになります(笑)
ーあ〜いいですね。それは絶対気持ちいい!(笑)。敷根選手は直感型のプレースタイルということでしたが、ご自身が感じる自分の特徴ってどういうところでしょう?
敷根:僕はフェンサーの中でも特に特徴的で、日本人にはあまりいない「手を引くスタイル」なんです。
ー手を引く?
敷根:はい。まず、ほとんどの選手は剣を前に向けて構えているんですね。その剣で常に相手との距離を測りながら攻撃を仕掛けていきます。
ですが僕の場合は、剣ではなく「体で距離を測っている」んです。
その理由として、フェンシングのフルーレとサーブルでのみ適用されている「攻撃優先権をとる」というルールが適用されていていることにあります。
基本的に先に攻めた選手に攻撃優先権が与えられるんですね。ただ、剣先を向けて攻撃優先権を得た後、こちらの剣先を相手の剣で払われると攻撃優先権が相手に移ってしまうんです。
なので僕は、払われないように構える段階から剣を外して、それで攻めていくというスタイルをとっているんですよ。
ーなるほど。最初から剣を引いて、攻撃の時だけ剣を出すと。確かに試合でも、剣を前に出して構えている選手しか見たことがないので珍しいタイプですね。それはご自身で考案したスタイルなんですか?
敷根:最終的には自分で考えましたが、この構えに至るきっかけは父なんですよ。
僕は手を右に引くスタイルなのですが、父は逆で、手を左に引くスタイルなんです。
なので、父の構えを応用して自分なりに編み出した結果、今の構え方になりました。
ーお父さんも体で距離を測るタイプだったんですね。他に影響された人物だったり、憧れを抱いた選手はいらっしゃいますか?
敷根:ここまで自分なりのフェンシングで頑張ってきたつもりなので、特に影響を受けたり憧れた人はいません。
ただ、人生を少し変えてくれたという意味でいうと、やはり太田雄貴さんとの出会いが挙げられます。
太田さんが現役時代に同じ日本代表のメンバーとして団体戦に出場したことがあるのですが、フェンシングの技や技術はもちろん、団体戦で必要な精神面についても丁寧に教えてくださいました。
加えてとてもリーダーシップがある方なので、僕たちを引っ張ってくれる、その姿を見て人生観が変わったんです。
写真:佐藤主祥/瀬川泰祐
Coopération de couverture / Association japonaise d'escrime