「感動を与えられるような、すごい試合を見せたい」。20歳の若きフェンサーが秘める、東京五輪への決意【敷根崇裕・後編】
2008年北京、12年ロンドンと、太田雄貴の活躍によって五輪2大会連続でメダルを獲得したフェンシング男子フルーレ。そんな輝かしい成果を残した同種目で、2年後の東京五輪メダル候補として注目を浴びている若きアスリートがいる。大分市生まれの若きフェンサー、敷根崇裕(しきね・たかひろ)だ。16年の世界ジュニア選手権で日本フェンシング史上初となる個人・団体 共に金メダルに輝き、昨年の世界選手権では個人で銅メダルを獲得。ジュニア時代から国際大会で実績を積み、同世代の活躍が目覚ましい男子フルーレで常に結果を残し続けている。この後編では、試合や練習では見せない素顔や自身のギアに対するこだわり、そして東京五輪に向けての意気込みを語ってもらった。
Principal Sato
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2018/07/27
敷根:調子が悪かったり悩んでしまった時は、誰にも相談せずに自分の中で考えて、どうすればいいのか答えを導き出します。
何かを参考にして、今までやったことがないことを取り入れて、それで成功しなかった時に頭が真っ白になってしまったことがあったので。
ー実際にそういう経験をしていたんですね。
敷根:はい。それからは自分で考えるようにして、ダメだった時に戸惑わないようにしています。
そうすることで、ここまで何があってもうまく乗り切ることができました。
他の対処法としては、完全にフェンシングから離れて気分転換することもありますね。
体や頭を少し休めるだけでも調子を取り戻せることがありますから。
ーなるほど。何をして気分転換されているのですか?
敷根:体の疲労を取りたい時は1日中ずっと家にいます。
頭の中をリフレッシュしたい場合は、カラオケに行ったり映画を観にいったり。あとは結構お菓子が好きなので、たまに自分でお菓子を作ることもあります(笑)
ーそうなんですか!?ちなみに何を…?(笑)
敷根:最近はマカロンを作りました(笑)
自分で言うのもなんですが、お菓子作りとなると結構こだわるので、作ると決めたら完璧に仕上げますよ。
ーもはやパティシエじゃないですか(笑)。ぜひ食べてみたい…。カラオケにも行かれると仰っていましたが、何を歌うんですか?
敷根:僕は好きな曲がコロコロ変わるので、その時に「いいな」と思った曲を歌いますね。
最近だと「back number」や「wanima」、それと昔の「レミオロメン」とか(笑)
ーいいですね〜!カラオケは選手同士で行かれるんですか?
敷根:そうですね。兄(敷根章裕)や西藤俊哉選手とよく一緒に行きます。
ー西藤選手とは同じ日本代表のチームメイトであり、同世代のライバルとしても切磋琢磨し合う関係だと思うのですが、敷根選手の意識としてはいかがでしょう?
敷根:確かにすごくライバル意識はありますね。特に意識しているのは、先程お話した西藤俊哉選手と松山恭助選手の二人です。
西藤俊哉選手は俊哉、松山恭助選手は恭ちゃんって呼んでいるんですけど、恭ちゃんには小さい頃から全く試合で勝てなくて、ずっと僕が追いかけている立場なんです。
今では試合結果(勝ち負け)ではあまり差はないとは思うんですけど、恭ちゃんの方が試合内容が断然いいので、まだ自分の中では追いかけているというイメージがありますね。
逆に俊哉は、僕が一歩リードしていて追いかけられる立場だったんですけど、彼は今すごく実力が付いてきているんですよ。
僕の中では負けていないつもりなんですけど、周りから見たら俊哉の方が強いと思われているかもしれないので、これからは今まで以上に負けられないという思いが強いです。
ー素晴らしいライバル関係ですね。みなさんの活躍が楽しみです!さて、キングギアは選手の用具にフォーカスしたメディアなのですが、敷根選手は剣の硬さにこだわりはありますか?
敷根:剣は硬すぎず、柔らかすぎず、ちょうどいいものを選んでいます。
昔はパワーがなかったので、“振り込み(剣をしならせて相手の背中などを突く技)”がやりやすい柔らかい剣を使っていたんです。
でも少しずつパワーがついていく中で、徐々に剣の硬さも変わっていきました。
ただ、硬すぎると曲がらず相手の背中が突けないので、剣先がコントロールできるくらいの硬さにしています。
ー実際に剣を持たせていただいたんですけど、フェンシングの剣って想像以上に硬くて驚きました(笑)。あの硬さで曲げて相手の背中を突くって、相当パワーがいると思うのですが…。
敷根:確かにパワーがあればなんとか剣は曲げられるんですけど、それに加えて背中を突くとなると、技術も必要になってくるんです。
なのでパワーと技術の両方をバランスよく身に付けなくてはいけません。
ーパワーがあればいいというわけではないんですね。では、硬さ以外でこだわっている部分はありますか?
敷根:硬さ以外でいうと、こだわりは二つあります。
ひとつは、「ヒルト」と呼ばれる剣の持ち手の部分です。僕の場合は、そこを削って自分の持ちやすい形に加工しています。
ふたつ目は、剣の角度です。これは僕だけかもしれませんが、いつも相手の利き手によって剣の角度を変えているんですよ。
右利きであれば、剣の角度を少し下げます。逆に左利きなら、右利きの時以上に角度を下げるようにしているんです。
ーそれは、なぜでしょう?
敷根:たとえば相手が左利きの場合は、僕が右利きなので、剣を構えるとお互いの肩が近づきますよね?その肩を突くために、ちょっと剣の角度をつけて技を決めやすくしているんです。
ーなるほど。それは他の選手はあまりしないのですか?
敷根:そうですね。他の選手は基本、どんな相手でも同じ角度でやっています。
ー先ほど剣の持ち手を削ると仰っていましたが、いつも手作業でカスタマイズを?
敷根:はい。フェンシングの剣はオーダーメイドで作ってもらうわけではないので、自分で買って自分に合うように作っていきます。
粘土みたいに固まる「パテ」という硬化剤があるんですけど、はじめにヤスリでダーっと削ってから、そのパテを付けて、自分の手にフィットする形になるように固めているんです。
ー剣一つひとつ、とてもこだわりをもって作り上げているんですね。ありがとうございます。それでは最後に、2年後の東京五輪に向けて抱負をお願いします。
敷根:もちろん東京五輪では、絶対に金メダルを取りたいと思っています。
技術面に関しては世界でもトップレベルだと自負しているので、あとはコントロールミスやちょっとしたズレを修正していきたいですね。
それと、まだ外国人選手に力負けしてしまうところが少しあるので、もっと筋力をつけていくことができれば、金メダルは取れる。それくらい自信はあります。
また、フェンシングの男子フルーレは、僕だけに限らず伸びしろがある若い選手が多いので、これからどんどん強くなっていきます。
なので、もっとたくさんの人に試合を観に来ていただきたいです。
あまり知られていないんですけど、日本で開催される全日本選手権と高円宮杯では実際に選手と会話ができたりするので、他のスポーツより選手との距離が近いんですよ。
ーえ、選手と話せるんですか!?
敷根:そうなんです。選手は観客席に上がることが多いので、ファンと知り合いになったり、試合を解説してくれる選手もいるんですよ。
Twitterで昨年行われた全日本選手権の反応を調べたら、「今までフェンシング見たことなかったけど、行ってみたらすごく楽しかった」とか「迫力があるし、何より選手と話せてすごい!」といったツイートが多かったんです。
こういうコメントを見ていると、少しずつではありますが、日本のフェンシング界は良い方向に向かって進んでいるなと、そう感じています。
僕自身、国内の大会や東京五輪で、みなさんに「感動を与えられるような、すごい試合を見せたいな」という気持ちが高まりました。
選手との距離の近さや、試合のスピード感と迫力はフェンシングならではの魅力だと思うので、ぜひ一度見に来てほしいですね。
写真:佐藤主祥/瀬川泰祐
Coopération de couverture / Association japonaise d'escrime